「モテ男の証明 〜68歳、攻めのバレンタイン〜」
爺さんは動いた。
待っていては始まらない。
人生は攻めだ。
まして今日は――
男として生まれた以上、
モテる男を証明する大事な日。
チョコレート店のショーウインドウを前に、
怪鳥は静かに身をかがめた。

「あの……これを、ひとつ……」
指先は震えていない。
だが心は少し震えている。
お姉さんが微笑む。
「はい。」
その瞬間、脳内ファンファーレ。
袋を受け取る。
ここまでは紳士。
背筋を伸ばし、
さりげなく店を出る。
(よし、完璧だ。)

だが――
5歩進んだところで、
口元がゆるむ。
10歩進んだところで、
頬がゆるむ。
20歩進んだところで、
完全にゆるむ。
脳内実況が始まる。
「おっとここで怪鳥、ハート型をゲットォーー!!」
「これは強い!これは強い!!」

周囲の通行人は気づいていない。
だが本人の中では、
モテ男、爆誕。
ついに耐えきれず、
袋をそっと開き、
ハート型の箱を確認。
ニヤリ。
いや、ニヤリではない。
満面。
そして脳内観客席に向かって一言。
「もらったぜ。」
誰から?
それは聞くな。
さらに想像が加速する。
「え?バレンタインですか?
いやぁ…まぁ、いくつかね。」
という未来予想図。
そして次の瞬間、
小躍り。
完全に小躍り。

音符が見えるレベル。
68歳。
まだまだ伸びしろしかない。
もらえないと嘆くな。
自ら動け。
自ら証明せよ。
これが攻めのバレンタインである。
まあ、まじめな話をしますとね、私がもらうのは妻からの一箱だけですわ。これが現実ですわ…ワハハは…。

