パンを見ていたんじゃない。人を見ていた。
久しぶりに、お気に入りのパン屋「みちぱん」へ向かった。

もちろん目的は大好物のチリコンカンである。
頭の中では店へ向かう途中から、
「チリコンカン、チリコンカン♪」
と、よく分からないテーマソングが流れている。
ところが店に着くと、まず目に飛び込んできたのはパンではなかった。
軒下にはツバメの巣。

親鳥を待つ赤ちゃんたちが、一生懸命鳴いている。
あまりにも可愛くて動画を撮り始めた。
しかし、親鳥がなかなか戻ってこない。
「……あれ?」
どうやら私が近くにいるので警戒しているらしい。
これはまずい。
「餓死させたろうか!」
もちろんツバメではない。
自分へのツッコミである。(笑)
慌てて撮影を切り上げ、少し離れた場所から静かに見守ることにした。
すると親鳥は安心したように戻ってきて、赤ちゃんたちは元気いっぱいに餌を頬張り始めた。
「ああ、よかった。」
そんな気持ちになった。
店内へ入る。
ところが、ここでも私は陳列されたパンを見ていなかった。
視線の先にいたのは、若いパン職人さん。
焼き上がったパンを、一つひとつ丁寧に仕上げている。
チーズをのせる。
ソースを整える。
飾り付けをする。
私は今までパンを少々甘く見ていた。
焼くだけかと思っていた。
ところが違った。
まるでケーキ職人のように、一つひとつ丁寧に最後の仕事をしているのである。
そして店内には、焼き立ての香りが広がる。
私はこの香りが大好きだ。
この香りを吸い込んだ瞬間、
もう99%満足している。
残り1%は…。
食べるだけである。
いや、正確には…。
飲むだけである。
揚げたてのチリコンカンを受け取り、一口。

中のルーは、まだふつふつと生きていた。
熱い。
でも、それがたまらなく美味しい。
気が付けば…。
30秒。
完食である。
その姿を思い返して、ふと笑ってしまった。
親鳥が丹精込めて運んできた餌を、一瞬で平らげるツバメの赤ちゃん。
若い職人さんが丹精込めて焼き上げたパンを、「これは飲み物だ」と言いながら30秒で平らげる私。
互角の勝負だった。
いや…。
68歳にもなって、生まれたばかりのツバメと勝負している。
なんか最低の爺さんである。(笑)
でも今日、改めて気付いたことがある。
私はパンが好きなのではない。
人が好きなのだ。
ツバメの親子も。
若いパン職人さんも。
展示会で出会う研究者も学生も。
人が一生懸命何かを生み出している姿を見るのが好きなのである。
だから私は、これからも展示会へ行く。
パン屋へも行く。
そこには、また新しい「人」との出会いがあるのだから。

